酸素魚雷

93式魚雷断面図










    6.10  九三式魚雷説明図

  酸素魚雷を解説した資料の中には、九三式魚雷の断面図が掲載されているものがある。
  内部の部品配置が細かく記載されており、当時の具体的な構造が判る、はずである。

  しかし、著者や編集者のチェックが不十分なせいであろうか、同一の魚雷であるはずなのに、
  部品名称が異なっていたり、明らかに間違っているものがある。

  そこで、本章では、それらについて比較してみた。


 
                    【 九三式魚雷 後部 】

  表:九三式魚雷構成部品の名称
 

 表から判るように、資料によって、部品名称が異なっている。そこで、本稿では、以下の検討
 に基づいて、部品呼称を決定した。


  A:起動装置
    魚雷を起動するメカニズムなので、起動装置とした。

  B:起動弁
    圧縮酸素タンクを圧縮空気タンクへ送る配管を開閉する。『起動電動機』と記載して
     いるものもあるが、電動機にする意味はない。また、機関がガソリンエンジン等の内燃
     機関を意味し、それを起動するのであれば、取り付け位置がおかしいことになる。
    断面図の配管経路を見るとガス配管に見られる開閉弁と考えた方が筋が通る。
    本稿では、起動時に解放する弁ということで、『起動弁』と呼称している。

        なお、「日本駆逐艦の優勢はなぜ覆されたのか」では、『起動電動機』となっているが、
    おそらく資料で「スタータ」となっていたものを内燃機関のスターターモータと誤解し、それ
    を直訳したものと考えられる。

  C:圧縮酸素タンク
    第二気室であるが、実質、圧縮酸素タンクなので、混乱を避ける意味で、『圧縮酸素
    タンク』が最適の呼称である。なお、『液体酸素』は明らかに間違いである。

  D:燃料分離器
    燃料タンク内を仕切るゴム製の袋で、内部に海水が流入することで膨張し、燃料を押し
    出す部品、と推定した。


  E:燃料タンク
    燃料室との記載であるが、実質、燃料タンクである。燃料は「灯油」を使用している。

  F:圧縮空気タンク
    第一気室であるが、実質は圧縮空気タンクである。なお、九三式三型では、魚雷発射
    始動直後の冷走時に、海水中に気泡が生じない『四塩化炭素』を使用したらしい。
    四塩化炭素は酸化剤でも燃焼剤でもないので、熱走時には、四塩化炭素と酸素の混
    合ガスで起動する。この場合、酸素濃度が低い場合には、着火しない可能性がある。
    酸素魚雷では、着火に失敗して冷走状態から熱走状態に移行しなかったことがよく起
    きたそうであるが、原因は空気ではなく、四塩化炭素を使ったためかもしれない。

  G:燃焼器
     いわゆる『燃焼室』であるが、魚雷本体内部の区画を意味する『○○室』と、部品名に
     『○○室』とを混在するのは、表記上、誤解しやすい。
      例えば、キッチンとガスコンロは別物であり、キッチン室、ガスコンロ室と表記した場合、何
     をイメージするか、ということである。

  H:クランク式ガス圧モータ
     単気筒往復動タイプのクランク式モータである。ガス圧となっているのは、一般的な水蒸気
    ではなく、海水から作られた水蒸気と二酸化炭素の混合ガスだからでである。
     他の資料のように、『気筒』、『エンジン』、『主機関』では、具体的に何を意味しているのか
      判らない。

  J:伝達軸
   左右に配置された単気筒のクランク式ガス圧モータは、ベベルギヤで直角方向の回転運
    動に変換され伝達軸を回転させる。

  K:二重反転ギヤボックス
       二重反転スクリューは前後のスクリューが互いに逆方向に回転する。このため、入力軸
    (=伝達軸)を相互で逆回転する同心軸に変換する必要がある。

  L:二重反転スクリュー
    スクリューが高速回転すると、その反動トルクで魚雷自体が回転したり、進路が偏ってく
    る。そこで、2つのスクリューを互いに逆転させることで、反動トルクを相殺するのである。

  M:水圧感知器
     発射前に設定した魚雷の深度を一定に保つ深度調整システムを構成する部品であ
     るが、超音波を海底に当てて深度を計測しているわけではなく、水圧(=水深)の
     変化を機械的に感知しているだけある。そこで、「水圧感知器」という名称にした。

 N:ジャイロ機構
    魚雷の進路を一定に保つ方向調整システムを構成する重要部品であるが、ジャイロ
    自体は、角加速度を検知する装置の総称であり、あくまでもシステムの一部品である。
    ジャイロの効果(作用)を利用している、という意味で、『機構』を付けないと正確と
    は言えない。

        なお、「日本駆逐艦の優勢はなぜ覆されたのか」では、『ジャイロスコープ』となっている
    が、『ジャイロ』は『ジャイロスコープ』の略語なので、やはり意味不明となる。

  P:操舵用圧縮空気タンク
    推定であるが、昇降舵制御用と考えられる。

  Q:操舵用圧縮空気タンク
    推定であるが、方向舵制御用と考えられる。

  R:昇降舵アクチュエータ
        現在、空気圧機器で使用されている往復動型アクチュエータと同一のものである。
    図では明記していないが、空気圧が作用していない場合は、中立位置に復帰させる
    ための機構(ばね)が付属していると考察する。

  S:方向安定板
    航空機の垂直尾翼に相当する。

  T:方向舵
    縦に付いているから『縦舵』という名称であるが、制御しているのは、横(水平)方向
    である。航空機の場合は、方向を制御しているので、『方向舵』 と呼称している。
    本稿では、航空機の例に従った。


  
           【 九三式魚雷 構造説明図 (大和ミュージアム)】




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