酸素魚雷

分類









  
  4. 魚雷駆動方式の変遷

  魚雷用原動機の発達について調べると、ホワイトヘッドが圧縮空気と空圧モータを組み合わ
 て水中を自走可能にした爆雷が魚雷の元祖である。
  その後、魚雷の雷速、射距離延長の手段として、空気を暖める方式が開発され、「熱空気
  式」、「熱走式」と呼称されるようになった。
  この結果、従来使われていた圧縮空気式は「冷走式」と呼称されるようになった。
  さらにその後、熱空気に水を加える方法が開発され、「湿式熱空気魚雷」と呼称された。
 これにより、従来の熱空気魚雷は「乾式熱空気魚雷」と呼ばれるようになった訳である。

 ただ、温めた空気にわざわざ水を加えることについては、冷却のため、と説明されているが、エ
 ネルギー効率から考えれば明らかにデメリットである。

 普通に考えれば、高温の燃焼ガスに水を噴射して蒸気を発生させ、蒸気圧ピストン式モー
  タで駆動したという説明の方が合理的である。

  何と言っても水を加熱して水蒸気に変わると、体積は1700倍に膨張するのである。高圧
  水蒸気を長時間発生させることができれば、魚雷の雷速、射距離を大幅に延長することが
 できる、というのが工学的に常識的な発想であろう。
  以上のように考えると魚雷は、空気圧ピストンモータで作動する第一世代、乾式熱空気方
  式の第二世代、湿式熱空気方式の第三世代、そして、純酸素駆動の第四世代と分類す
  ることができる。

  さて、前項では、原動機の定義について再検討し、「エンジン」と「モータ」の2つに大別した
  が、本章では、第一世代〜第四世代魚雷の駆動形式について、「エンジン」と「モータ」で再
  分類してみたい。



   4.1  第一世代:ホワイトヘッド魚雷(空気圧モータ)

 

 ホワイトヘッドが発明した世界初の魚雷は、圧縮空気の圧力を空気圧式ピストンモータでス
  クリューを回転させて、馳走するものである。
 プロトタイプは、雷速11ノット、馳走距離610メートルとなっているが、1876年に開発された
  タイプでは、雷速9ノットで、馳走距離1200ヤード(1.1km)となっている。

  魚雷の原動機の作動は以下の通りである。
  魚雷は発射管にセットされており、空気圧で発射する際、発射管内のフックが起動弁を動か
  す。
  起動弁を開くと、圧縮空気タンクに蓄圧された高圧の圧縮空気が空気圧クランク式モータに
  流れ込み、ピストンの往復運動がクランク機構によって回転運動に変換され、伝達軸が回転
  する。

  空気圧クランク式モータを回転させた高圧圧縮空気は、低圧圧縮空気として排気口から排
  出されるが、圧縮空気としてエネルギーを持っているので、2つ目の空気圧クランク式モータを
  回転させるのに使われる。2つ目の空気圧クランク式モータは、低圧でも作動するように、シ
  リンダ径は一つ目のクランク式モータのシリンダ径より大きくなっている。

  つまり、タンクを出た高圧圧縮空気は、まず小径シリンダ側で回転運動に変換され、排気口
  を出た低圧圧縮空気が大径シリンダ側でもう一度回転運動に変換される2段膨張方式で
 ある。

 なお、2つの空気圧クランク式モータは、ピストンの片側のみで空気圧を受ける単動方式で、
  空気圧の吸排気は、すべり弁ではなく、シリンダ自体の揺動で吸排気口を切り替える『首振
  り(オシレーチング)式』である。

  実は、この1876年製16インチ魚雷のアニメーションが Youtube 上で発表されていて、本図
  は、そのアニメーションを参考にして作図した。
  アニメーションモデルを作るのであれば、わざわざ動きの複雑な首振り式にしたり、左右のシリン
 ダ径を変える必要性は低い。逆に、あえて手間ヒマ掛けて作っているということは、何らかの信
  頼できる情報があったはず、と考えたからである。
 



    4.2  第二世代:乾式熱空気魚雷(ブレイトンエンジン)

   

  圧縮空気で空気圧クランク式モータを駆動する第一世代魚雷では、雷速、馳走距離とも
  十分な性能でなかったため、圧縮空気を加熱して雷速、馳走距離を向上させる第二世代
  魚雷が開発された。

  この第二世代魚雷の原動機についていろいろ調べてみたが、決定的とも言える情報は本原
  稿作成時には見つからなかった。ただ、開発年代から考えると、ブレイトンエンジンが一番高
  いと考えられる。

  ブレイトンエンジンは、1873年にアメリカ人ブレイトンが発明したもので、街路車や船を動か
  す研究を続けたが、船2艘が動いただけで終わった、と言われている。
 その後、シモンという人物がブレイトン機関の排気ガスをボイラの熱源に利用するシモン機関
  を発明し、1878年のパリ博覧会に出展し、注目を受けた、そうである。

  ホワイトヘッドが空気圧で動く魚雷を開発したのが1864年、自動操舵安定装置付の実用
  魚雷を開発したのが1866年なので、その後、ホワイトヘッドが魚雷を改良する過程でブレイ
  トン機関を採用した可能性が考えられる。実際、空気加熱装置付魚雷の発明は1901年
  という説がある。

  以上のことから、乾式熱空気魚雷の原動機=ブレイトンエンジン説は、十分に根拠があると
  考えることができる。そこで、本稿では、ブレイトンエンジンと仮定して機構を検討した。従って、
 本図はあくまでも想像である。

  さて、元祖ブレイトン機関は、空気を圧縮するためのポンプが付いていたが、魚雷の場合は予
  め空気タンクに蓄圧しているので、空気ポンプは不要である。ただし、ブレイトンエンジンの作動
  タイミングに合わせて、圧縮空気を噴射する必要がある。そのためには、カムシャフト上に給気
 カムを設け、クランクシャフト1回転で一回プッシュロッドで給気弁を押し開くような構造が考えら
  れる。

 圧縮空気タンクでは、圧力が高い方が多量の空気を蓄圧できるが、ブレイトンエンジンでは、
  低圧力で作動させないと、火炎が安定しない。そのため、調圧弁で圧力を減圧調整する必
  要がある。低圧空気の一部は、燃料タンクに送られ、燃料を押し出すのに使われる。
  ブレイトンエンジンを使用する場合の課題は、以下の2点である。

  まず、ブレイトンエンジンは外部からクランクシャフトを回転させて起動しない限り、作動を開始
  しない。ただ、ブレイトンエンジンは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのような圧縮行程がな
 いので、ばねなどの力でクランクシャフトを回転させる始動機構で十分なのかもしれない。

  次の課題は、ブレイトンエンジンでは燃料の着火に直火を使用していることである。燃料タンク
  から空気圧で圧送された燃料は、主燃焼系と直火系に送られるが、直火系では、予め燃料
  に着火しておかなけばならない。

  現代であれば、石油ストーブのようにバッテリーとグロープラグで簡単で着火できるが、当時の
  バッテリーでは長期保管が困難である。
  考えられる手段としては、オイルライターのように回転ヤスリと火打石を使う方法と、拳銃弾の
  薬きょう(空砲弾)を使う方法である。オイルライターの回転ヤスリ方式は、元々、旧式銃
  のホィールロック方式という元祖があり、ゼンマイを使って発火させるのは伝統的手法と言える。

  直火の着火に成功し、燃料と空気を連続的に供給できれば、直火はそのまま保持される。
  給気弁が開いて低圧空気が流入し、その後、格子間に溜まった燃料が低圧空気で噴霧さ
  れることで、混合ガスが形成され、直火の通過に燃焼炎となって、シリンダ内に流入する。
  シリンダ内でピストンを動かす力が回転運動に変換され、スクリューを回転させるわけである。
 第一世代と異なり、低圧空気と燃料の燃焼反応によって低圧の燃焼ガスを発生させるので、
  第一世代よりも長時間、低圧ガスを発生させることができる。ただし、ガス圧が低いので、雷
 速の劇的な向上は望めないだろう。


    4.3  第三世代:湿式熱空気魚雷(ガス圧式クランク型モータ)

  

  第二世代魚雷は、化学反応で発生した燃焼ガスを利用するため、第一世代に比べて馳走
  距離を伸ばすことに成功したが、攻撃対象である艦船の性能向上には付いていけなくなった。

  ところで、水を加熱して蒸気に変化すると、体積は1700倍になる。つまり、その分、長時間
  高圧力を発生させることができる。そこで、燃焼ガスの熱を利用して高圧蒸気を発生させる
  第三世代魚雷が開発された。

  起動弁を開くと、高圧空気が調圧弁に送られる。調圧弁で適当な圧力に減圧された圧縮
  空気の大部分は燃焼器に送られるが、一部は燃料タンクと清水タンクに送られ、空気圧に
  よって燃料と水が燃焼器に圧送される。
  燃焼器内では、まずに低圧空気と燃料を燃焼させ、発生した高温の燃焼ガスに水を噴射
  して高温高圧の蒸気を発生させるものである。

 厳密に言えば、この蒸気には、燃焼反応で発生した二酸化炭素、元々空気に含まれてい
  て燃焼反応に関与しない窒素が含まれており、純粋な蒸気ではない。
 そこで、従来の「クランク式蒸気圧モータ」と区別するために「クランク式ガス圧モータ」と呼称
  する。

  さて、上図は、旧帝国海軍の「九○式魚雷」を横断面イメージ図である。クランク式ガス圧
  モータは単気筒の往復動タイプであり、クランクシャフト1回転で、ピストンには蒸気圧が2回
  作用するので、実質2気筒として作動する。
  九○式魚雷ではこのクランク式ガス圧モータを2基使用している。2つのガス圧モータの回
  転出力は、傘歯車機構によって直角方向の回転力に変換され、伝達軸を介して二重反
  転ギヤボックスに入り、二重反転スクリューを回転させる。


    4.4  酸素魚雷(ガス圧式クランク型モータ)

   

  第三世代魚雷の開発成功により、魚雷は攻撃目標である艦船の性能に対抗できるように
  なった。

  しかし、馳走距離の延伸によって新たに別の問題が出てきた。第三世代魚雷では、燃焼
  器内で発生した高圧蒸気、二酸化炭素、さらに燃焼反応に関与しない窒素の混合ガス
 でクランク式ガス圧モータを作動させるが、ガス圧モータ作動後は、これらの混合ガスは海水
  中に排出される。

 蒸気は海水中で冷却されて水に変わり、二酸化炭素は水溶性のため、海水中に溶け込
  むが、不活性ガスである窒素は、そのまま海水中に排出されると、気泡となってしまうのであ
 る。水中を高速で疾走する魚雷から放出された気泡は、白い航跡となって残るため、雷撃
  を受ける艦船側からすれば、遠距離からの魚雷の目視発見が容易となり、回避も可能と
  なる。

  そこで、燃焼反応に空気でなく、純酸素のみを使用すれば、燃焼反応で発生するのは水
  溶性の二酸化炭素だけである。

  この単純な理屈に気付いた各国海軍は、純酸素を使用する魚雷の開発に乗り出したが、
  燃料と酸素に着火した途端、爆発的に燃焼反応が進行する、という課題を解決できなか
  った。ただし、通常の空気に純酸素を混合して酸素濃度を高めた方式では成功している。

  一方、旧日本海軍では、低酸素の通常空気で燃焼反応をスタートし、徐々に酸素濃度
  を高めていけば、爆発的な燃焼反応が起きないことを発見した。

 そこで、始動用の空気タンクに純酸素タンクを直結して魚雷を始動、始動用の空気が消費
  された分だけ、純酸素が流入することで、徐々に酸素濃度が上がっていく、というシンプルな
 機構で具現化した。

  もちろん、実際には、空気と酸素供給バランスを取るため、複雑なバルブ制御機構が必要
  となり、部品点数の増加が生産性の低下に、機構の複雑さは整備性の悪化につながるこ
  とになる。

 上図は、九三式魚雷の横断面イメージ図である。機関部は、九○式魚雷同様、単気筒
  往復動タイプのクランク式ガス圧モータを2基使用している。2つのガス圧モータの回転出
  力は、傘歯車機構によって直角方向の回転力に変換され、伝達軸を介して二重反転ギ
 ヤボックスに入り、二重反転スクリューを回転させる。

  さて、酸素魚雷では、従来の圧縮空気タンクに純酸素を蓄圧した結果、燃焼に使用でき
  る酸素量は約4倍に増加したが、それに見合った燃料、清水を魚雷内に積み込まなけれ
 ば、純酸素の効果は生かせない。

  一方、駆逐艦や潜水艦で運用可能な魚雷のサイズには限界があるため、むやみに、燃料、
  清水の量を増やせない。さらに、始動用の圧縮空気タンクを新たに搭載する必要がある。

  そこで、酸素魚雷では、外部に存在する海水を使用することで、清水タンクを廃止している。
  起動弁を開くと、圧縮空気タンクから高圧の圧縮空気が流れ出し、燃焼器を素通りして、ク
  ランク式ガス圧モータを駆動する。この結果、二重反転スクリューが回転すると同時に、海水
  ポンプが作動する。つまり、酸素魚雷起動の第一段階では、第一世代魚雷のように、空気
  圧だけで作動するのである。

  海水ポンプが作動すると、周囲の海水が魚雷内部に取り込まれ、一部は、圧縮酸素タンク
  と燃料タンクの間にある燃料分離器に入る。流入する海水で膨張室の体積が増加すると、
  増加分だけ燃料が燃焼器に圧送される。

  燃焼器内で、圧縮空気と噴射された燃料が着火し、高温の燃焼ガスが発生する。そこに
  海水ポンプの圧力で海水が噴射され、高圧水蒸気が発生し、クランク式ガス圧モータを作
  動させる。この段階は通常の圧縮空気による燃焼のため、窒素ガスが海水中に排出され、
  魚雷の後方に白い航跡を残すことになる。

  最初に起動弁を開いた時、連動して圧縮酸素の起動弁も開くが、調圧弁で減圧調整され
  た後、圧縮空気タンクへ流入する。圧縮空気タンク内に徐々に純酸素が流れ込むことにより、
  次第に圧縮空気タンク内の酸素濃度も上昇していく。

  最終的に、圧縮空気タンクには圧縮酸素タンクの酸素がすべて流入することになり、燃焼器
  内では純酸素と燃料の燃焼反応となり、燃焼ガスも二酸化炭素のみとなる。この段階で、海
 水中に排出されるのは、水溶性の二酸化炭素と蒸気のみとなるので、魚雷の航跡は目立た
  なくなる。
 
 

   4.5  第一世代~第四世代魚雷のまとめ

 空気圧モータ駆動の第一世代魚雷から、湿式熱酸素式の第四世代まで解説したが、実
  際のところ、駆動システムの進化によりどの程度性能が向上したのであろうか。

  ホワイトヘッドが発明した魚雷は、雷速6ノット、馳走距離640メートルであるのに対して、
  九三式魚雷(酸素魚雷)では、雷速52ノット、馳走距離22000メートルであるが、元
  々サイズがまったく異なるため単純な比較にはならない。言わば、軽トラと大型トラックの最
  高速度や航続距離を比較するようなものだからである。

 ところで、 『「伊400型潜水艦」 潜水艦搭載魚雷オールガイド』(大塚好古)によれば、
  明治時代に日本で最初に自主設計が行われた三八式一号魚雷、及び、その性能向上
  型の三八式二号A魚雷は、冷走式、となっている。

  さらにこの三八式二号魚雷をベースに乾式加熱装置付きの熱走式魚雷に改修したのが、
  三八式二号Bで、輸入品の気室(圧縮空気タンク)以外を全て国産化したのが、四三
  式魚雷、となっている。

  その後、開発された四四式一号魚雷、及び四四式一号の炸薬量を増やした四四式二号
  魚雷は、英国の魚雷英国の魚雷設計とエルズウィック社製加熱装置等の装備品を参考に
 して開発されたもので、湿式熱空気魚雷、となっている。
  これらの魚雷の外径は450oで全長、質量ともほぼ同なので、性能を比較すれば、第1~
  第3世代の魚雷の性能を比較できるはずである。

  一方、酸素魚雷については、サイズ、性能とも差があり過ぎるため、八九式熱空気魚雷と九
  五式酸素魚雷間で性能を比較し、その比率を第3世代魚雷に当てはめて、酸素魚雷の仮
 想性能を計算してみることにした。

 


 

 圧縮空気モータを使用する第一世代魚雷では、26ノットで2000メートルの馳走距離であ
  るが、ブレイトンエンジンを使用する第2世代魚雷は、3230メートル と約1.6倍に向上して
 いる。さらに、ガス圧式の第三世代では同じ26ノットで8000メートルと一気に4倍に向上し
  ている。

 さて、仮に第三世代の四四式二号魚雷を第四世代の酸素魚雷に改造した場合、馳走距
 離はどの程度向上するだろうか。八九式と九五式の馳走距離の比率を単純に当てはめると、
  約17500メートルとなり、第一世代の8.8倍の向上という劇的な性能向上を示すことになる。

   ・ 第一世代(空気圧ピストン式モータ):三八式二号A = 1.0倍(基準:26ノット時)
   ・ 第二世代(ブレイトンエンジン)    :三八式二号B = 1.6倍
   ・ 第三世代(ガス圧ピストン式モータ) :四四式二号   = 4.4倍
   ・ 第四世代(ガス圧ピストン式モータ) :酸素魚雷     = 8.8倍

  上記の比較は、低速の第二雷速で比較した場合である。では、魚雷にとって最高のパフォー
  マンスを発揮する第一(最大)雷速の場合はどうだろうか。

  ここで問題となるが、第一雷速とその馳走距離が魚雷により数値がまったく異なることである。
  何らかの共通指標がなければ、相互比較できない。

  ただ、魚雷の雷速と馳走距離はトレードオフの関係にあり、雷速と馳走距離をグラフ上に示し
  た場合、その面積が魚雷の最高パフォーマンスを意味していることになる。
 そこで、第一〜第四世代の魚雷で比較可能な同サイズのものをグラフにしてみた。


 

  第一世代である空気圧ピストンモータ式の「三八式二号A」は、最大雷速31.5ノットで馳
  走距離1000メートルであるが、ブレイトンエンジン式の第二世代では、同じ馳走距離100
 0メートルでも、最大雷速は40ノットに向上している。

  一方、ガス圧ピストンモータ式の第三世代では、最高最速が第2世代よりも遅い35ノット
 であるが、馳走距離は4000メートルにまで向上している。
  第一世代である空気圧モータ式の三八式二号A魚雷の第一雷速×馳走距離の面積を
  基準にすると、世代別のパフォーマンスの向上率は、以下のようになる。

   ・ 第一世代(空気圧ピストン式モータ):三八式二号A = 1.0倍(基準:最大雷速)
   ・ 第二世代(ブレイトンエンジン)    :三八式二号B = 1.3倍
   ・ 第三世代(ガス圧ピストン式モータ) :四四式二号   = 4.4倍

  同様にして通常の湿式熱空気魚雷と酸素魚雷を比較すると

   ・ 第三世代(ガス圧ピストン式モータ) :八九式       = 1.0倍(基準:最大雷速)
   ・ 第四世代(ガス圧ピストン式モータ) :九五式一型   = 1.8倍

  となる。 

  八九式魚雷、九五式一型魚雷は、ともに潜水艦用の魚雷であり、外径、全長とも同一サ
  イズである。空気の主成分である窒素と酸素の成分比は、4:1なので、圧縮空気タンク内
  に通常の空気の代わりに酸素を圧縮充填すれば、単純計算で馳走距離は4倍になるはず
  である。しかし、馳走距離延伸に見合うだけの燃料を余分に積む必要があり、その間、魚雷
  の進路を自動制御するための圧縮空気タンクを別に搭載する必要がある。八九式のような
  第三世代魚雷では、大型の圧縮空気タンク1本で、燃焼用とアクチュエータ制御用を兼用
  できるが、アクチュエータ制御系に圧縮酸素を供給すると、パイプ内の油分と反応して爆発
  する危険性がある。それを避けるためには長距離の馳走に必要なアクチュエータ制御用の
  圧縮空気タンクを搭載する必要が出てくる。

  水上艦用の魚雷であれば、魚雷自体の大型化とそれに見合った発射管の変更という手段
  で対処できるが、スペースに限界があり、発射管のサイズが決まっている潜水艦用では困難
  である。

  逆に言えば、世代別の性能向上効果を見るのであれば、潜水艦用魚雷の方が適切である
  と言える。

  酸素魚雷にしたことの性能向上効果は、湿式熱空気式魚雷の1.8倍程度というのが妥当
  なところではないだろうか。




  蛇足
 発明の順序で言えば、ホワイトヘッドの冷走式が発明された後、熱走式が発明されたのであ
  るが、名称から言えば、後者が熱走式と名付けられたので、前者が冷走式と呼ばれるように
  なったのである。これは、ジェット戦闘機が開発された結果、従来のレシプロエンジン戦闘機
  がレシプロ戦闘機と呼ばれるようになったのと同じである。

  魚雷は兵器であり、性能向上のためにさまざまな技術開発が行われてきた。心臓部となる
  原動機も当然ながら、機密の塊であり、外部にすべての情報が公開されたとは考えられな
  い。そもそも本稿のテーマである『酸素魚雷』についても、戦後の呼称であり、それ以前は、
  酸素という言葉は使われず、「第二空気」と呼ばれていた。さらに、あの有名な戦艦大和の
 主砲46センチ砲も公式には九四式40センチ砲と呼ばれていた。

  従って、いわゆる「熱空気式」魚雷も、加熱した空気を使っていたとは限らないのである。