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2. エンジンとモータ
2.1 蒸気機関車
ジェームズ・ワットが発明した蒸気機関は、当初、工場で産業機械を動かすために使われて
いたが、その後さまざまな分野に応用され、社会を大きく変えて行った。
中でも、蒸気機関車は、短時間で、大量の人員物資を輸送できる手段をなり、社会変革
の原動力となった。
残念ながら、日本では1970年代に鉄道から蒸気機関車が姿を消し、現在では観光用途
に一部が使われているのみであり、そのメカニズムについても詳しく解説されなくなった。
そこで、改めて蒸気機関車について簡単に解説してみたい。
【 蒸気機関車 】
1) オペレータが石炭庫から石炭を火室に投入する。
2) 火室内で燃焼した石炭は、高温の燃焼ガス(煤煙)を発生させる。
3) 燃焼ガスはボイラ内にある煙管を通って、煙突から外部へ排出される。
4) 燃焼ガスが煙管を通る過程で、ボイラ内の水が暖められる。
5) 水の沸騰で発生した水蒸気は蒸気ドームに集められ、主蒸気管に流入する。
6) 主蒸気管は火室で加熱され、水分を含んだ水蒸気は乾燥した過熱蒸気に変わる。
7) 高温高圧の過熱蒸気は、シリンダに流入する。この時、すべり弁の作用でピストンが
押し引きされる。
8) ピストンに連結された主連接棒が動輪を回転させることで、機関車が前進する。
2.2 無火機関車
1863年、メトロポリタン鉄道が大英帝国の首都ロンドンに世界初の地下鉄を走らせたが、
使われていたのは、当然、蒸気機関車だった。
1869年には北アメリカ大陸の東側と西側をつなぐ大陸横断鉄道が完成し、鉄道と蒸気機
関車は、陸上における大量輸送の花形となった。
しかし、蒸気機関車の恩恵を受けたくても受けられない場所も存在した。例えば、鉱山であ
る。大がかりな換気設備を設置できる地下鉄の場合と異なり、狭い坑道内に蒸気機関車を
走らせれば、煤煙で作業員が窒息しかねない。
また、ボイラの直火が坑道内の可燃性ガスや石炭の微粉塵に引火すれば爆発事故の危険
がある。
そこで、発明されたのが、ボイラを使わずに走行することができる機関車である。ボイラの火を
使わないことから、一般に『無火機関車(fireless locomotive)』と呼ばれている。
いくつかのタイプがあるが、本稿では圧縮空気タンクを使ったタイプについて説明する。
【 無火機関車 】
1) 外部に設置された圧縮空気充填設備を使って、予め圧縮空気タンクに蓄圧しておく。
2) 分配弁を開いて、圧縮空気をシリンダへ送る。
3) 高圧の圧縮空気は、シリンダに流入する。この時、すべり弁の作用でピストンが押し引
き押し引きされる。
4) ピストンに連結された主連接棒が動輪を回転させることで、機関車が前進する。
5) オペレータは圧縮空気タンクの圧力を常時監視し、圧力が低くなると、機関車を地上
の圧縮空気充填設備に戻し、圧縮空気タンクに蓄圧する。
要するに『無火機関車』とは、通常の蒸気機関車から蒸気発生用のボイラ一式を撤去し、
代わりに、圧縮空気タンクを置いたものと言ってよい。
2.3 外燃機関の再定義
ジェームズ・ワットが実用蒸気機関を発明した時、エンジン(機関)と言えば、スチーム
エンジン(蒸気機関)しか存在しなかった。
その後、密閉したシリンダ内で直接燃料を燃焼させ、発生した高温高圧ガスでピストン
を駆動するエンジン(ガソリン機関、ディーゼル機関)が発明された。
両者の作動原理はまったく異なるため、以降区別するため、シリンダ外のボイラで火を焚い
て高圧ガスを発生させる蒸気機関を『外燃機関』、シリンダ内でガスを発生させるエンジン
を『内燃機関』と呼ぶようになった。
では、無火機関車の無火機関は外燃機関だろうか?それとも、内燃機関だろうか?
内燃機関でないのは間違いないが、別にシリンダ外で火を燃やしている訳ではない。
といって、蒸気を使っている訳でもない。
さて、第二次大戦後急速に発展し、現在も多く使われているのが、油圧・空気圧技術であ
る。これらの油空圧機器の中で圧力を力仕事に変換する機器を『アクチュエータ』と呼ぶが、
特に、力仕事を軸回転(トルク)に変換するアクチュエータを『油圧モータ』、『空圧モータ』と
呼称している。
【ベーン式空気圧モータ】 【星型油圧モータ】
考えてみれば、蒸気機関も無火機関車も高圧ガスという物理的エネルギーを直接シリンダ
に送って、軸の回転出力に変換しているのである。
さらに敷衍すれば、電気モータもモータ本体に供給された電気エネルギーを軸の回転出力
に変換している。
一方、内燃機関の場合、燃料を供給すると直ちに作動する訳ではない。シリンダ内に取り
込まれた燃料を燃焼させて、高温高圧のガスを発生させ、そのガスをクランク機構で、軸の
回転出力に変換しているのである。つまり、内燃機関は、シリンダ内で高圧ガスを発生させ
るために、1行程余分に必要なのである。
そこで、本稿では旧来の外燃機関の概念を拡張し、蒸気圧、空気圧、電気、熱など外部
から供給される何らかの物理的エネルギーをダイレクトに軸の回転出力(=力仕事)に変
換する装置を『モータ』と呼ぶことにする。
一方、燃料を燃焼させて高温高圧のガスに変換し、その物理的エネルギーを軸の回転出力
に変換する装置を『エンジン』と呼称することにする。つまり、本稿で『エンジン』と呼称するのは、
ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ブレイトンエンジンなどである。
2.4 まとめ
本稿で定義するエンジンとモータの違いを、表にまとめた。
※1:なお、外燃機関を『モータ』と呼称するのは、本稿内のみであり、一般的な技術用語で
はないことを改めて付記しておく。
※2:ドイツのヘルムート・ヴァルターは1930年代に高濃度の過酸化水素を動力源とする原
動機を発明した。 この原動機は、過酸化水素と触媒を反応させて発生する高圧酸
素と水蒸気で蒸気タービンを駆動する「低温ヴァルター機関」と、発生した高圧酸素と
燃料を燃焼させて高温高圧のガスを噴射する「高温ヴァルター機関」の2種類に大別
される。
残念ながら一般向けの兵器解説書では単に「ヴァルター機関」と記述されるケースが
大半であり、例えば、魚雷であれば、スクリュー推進なのかロケット推進かの区別は不
可能である。
一方、本稿の分類によれば、「低温ヴァルター機関」は「ヴァルターモータ」、「高温ヴァ
ルター機関」は「ヴァルターエンジン」となり、明白に区別することができる。
※3:無火機関車のように、圧縮空気の圧力で車輪を動かす『エアエンジンカー』(写真は
ELEKIT製)なるものが販売されている。(2020年時点)
しかし、本稿の分類によれば、「エンジン」ではなく、「ピストン式空圧モータ」である。
電池と電動モータの関係を圧縮空気タンクとピストン式空気圧モータの関係で考えれば
理解しやすいだろう。
「ELEKIT製エアエンジンカー」
日本では動力源の呼称として「エンジン」が安易に多用されているが、本例のように、正
確な定義に基づかない中途半端な呼称の乱用が、多くの誤解を生む一因となっている
と言える。