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酸素魚雷
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ガソリンエンジン魚雷
ガソリンエンジン魚雷
補足1.ガソリンエンジン魚雷
第二次大戦までの魚雷の動力といえば、電池式とガス圧(水蒸気式)の2種類が代表であるが、
ドイツ海軍では、ガソリンエンジンを動力源する魚雷を開発していた。
一応開発は成功し、1945年始めには実戦部隊への配備が進められていたが、なぜか直前になっ
てキャンセルされ、結局のところは、使用されなかったようである。
この魚雷用ガソリンエンジンは現在使われているタイプと異なり、技術史に残ると言ってよいくらいのユ
ニークな特長がある。
本稿は酸素魚雷について考察したものであるが、比較という意味でドイツのガソリンエンジン魚雷につ
いて簡単に記述する。
ガソリンエンジンの仕様は以下の通りである。
開発メーカー:ユンカース社
エンジン型番:Jumo KM-8
エンジン形式:V型8気筒
ボア×ストローク:90×85
排気量:4340cm^3
圧縮比:6.6:1
点火プラグ:W240航空用プラグ
気化器:ジェット式
最大出力:275ps/3650RPM(ネット資料)
425ps/4360RPM(サンケイ第二次世界大戦ブックス「V1号V2号」)
※ 最大出力には、2つの説があったため併記した
単体重量:200kgf
本エンジンの技術的な特徴は以下の2点である。
1)サイズに限界がある魚雷に収納するため、シリンダヘッド部分が高くならないようにする必要がある。
そこで、通常のポペットバルブではなく、円盤を回転させるロータリーディスクバルブ式を採用している。
2)エンジン駆動の酸化剤は圧縮酸素タンクから供給されるが、魚雷の航続性能を高めるため、排気
ガスをもう一度エンジンに吸入させる排気ガス再循環方式(EGR)を採用している。
ガソリンエンジンの性能向上案として、ポペットバルブではなくロータリーバルブを使用する方式には、航空エ
ンジンの天才設計者ロイ・フェッデンもチャレンジし、実用化にまでこぎつけているが、残念ながら主流とはな
りえなかった。
ロータリーバルブの課題は、シール構造が困難なこと、バルブの開閉構造が複雑化することと、ロータリーバル
ブの隙間に排気ガスの炭素微粒子が堆積して作動不良を起こすこと等である。
本ガソリンエンジン魚雷では、ユンカースJumo KM8 では、ヴァンケル社(戦後にロータリーエンジンを開発し
て世界に有名になった)が開発したロータリーディスクバルブを採用している。
ロータリーディスクバルブは、吸排気ポートとシリンダヘッドの吸排気口の間を回転する円盤で仕切り、円盤に
開けられた穴が吸排気ポートと吸排気口と重なった瞬間にバルブが解放されるものである。
ロータリーディスクバルブの弱点は、気密を保つシール部分とバルブのディスク部分が常時回転接触している
ため、通常のポペット弁ほど気密性が良くないこと、回転部分が焼き付かないようにするため大量のオイルで
潤滑する必要があり、燃焼するオイルで排気ガス中で大量の白煙が発生する等である。
また、Jumo KM8のもうひとつの特徴は、EGR(排気ガス再循環)を採用していることである。
ガソリンエンジンはエンジン出力のコントロールを吸入空気量で行っているため、中速域以下では、スロットル
バルブの開度が半開以下となる。エンジン吸気行程ではこれが損失となり、一般にはポンピングロスと呼ばれ
ている。
そこで、ポンピングロスを低減するため、スロットルバルブの開度を大きくする一方、吸入空気に排気ガスを混
ぜることで、実質的な吸入空気量(燃焼に必要な酸素量)を低下させるという手法がある。
この手法が、EGR(排気ガス再循環)と呼ばれるもので、低出力域でのポンピングロスを減らすことで、効
率向上を図ることができる。
また、吸入空気量が減ることで、燃焼行程での燃焼温度が下がり、有害な窒素酸化物の発生が抑えられ
る。現代のエンジン技術でEGRが使われているのは、主にこちらの理由である。
Jumo KM-8では、酸化剤である純酸素に不燃物である排気ガスとを混合して吸入させることにより、ポンピ
ングロスを減らして、魚雷の延伸を図る、という方法を採用している。
さて、ロータリーディスクバルブ式は、シリンダヘッドの高さを低く抑えることができ、通常のポペット弁式に比べて、
部品点数も大幅に削減できるというメリットがあるものの、シール部分の耐久性に大きな課題が残る。
後にヴァンケル社はロータリーエンジンを開発するが、実際に実用化、量産にまでこぎつけた日本のマツダはこの
回転部分のシールの問題では大変な苦労を重ねている。
Jumo KM-8は、消耗品の魚雷用ということで、割り切ったということかもしれない。KM-8はエンジン耐久試験で
50時間の運転に成功したと記録されているが、自動車などの民生品では話にならないレベルであるとも言える。
【 Jumo KM-8 断面図 】
ドイツ海軍の標準的な魚雷であるG7aの外径は533mmである。日本の九三式魚雷も外径は533mm
で、外板の厚さは3.2mmである。そこから考えると、魚雷の内径は526.6cmであり、搭載スペースの余裕を
考えると、実質、500mm程度と考えることができる。
断面図を見ると、ロータリーディスクバルブ式なので、シリンダヘッドの高さがなんとか魚雷内部に納まっているが、
通常のOHVやOHCでは、シリンダヘッドが魚雷の外に露出することになると推定される。
【 Jumo KM-8 側面図 】
Jumo KM-8 側面図兼断面図である。クランク軸の右側にV8エンジンを起動するためのスターターモー
タが確認できる。
シリンダが二重壁構造になっているように見えないが、海水をポンプで循環させる冷却システムが付いている
はずである。そうでなければ、エンジンが焼き付いてしまう。
【 ロータリーディスクバルブエンジン 概念図 】
Jomo KM-8をベースにロータリーディスクバルブエンジンの構造を考察する。
「クランクシャフト」上に設置された「駆動傘歯車」の回転は、「従動傘歯車」によって、90度横向きの
回転に変換される。
「クランクシャフト」の回転は「伝達シャフト」に伝わり、「駆動歯車」を回転させる。
「ロータリーディスクバルブ」の円周外端部には「従動歯車」が付いており、「クランクシャフト」の回転は
最終的に、「ロータリーディスクバルブ」を回転させることになる。
「ロータリーディスクバルブ」の「回転軸」はシリンダ中心軸上にあり、ディスクの一か所に穴が開いている。
この穴の回転半径は、シリンダ中心軸に対する「吸気口」、「排気口」のピッチ半径と一致するように設
定されている。
「駆動歯車」と「従動歯車」は2:1で回転するため、それぞれ吸入行程、排気行程で、「ロータリー
ディスクバルブ」の穴が「吸気口」と「排気口」が同調して連通することになる。
ガソリンエンジンなので点火プラグは必要だが、シリンダヘッドの斜め横からねじ込まれていると推定される
ため、本図では省略した。航空機用エンジンでは、点火プラグは1気筒当たり2個付いているので、斜め
横配置でも問題ないが、もし、1気筒あたり1箇の場合、燃焼室の側面から点火されることになり、不正
燃焼が起きやすくなる。この辺り、気になるところである。
一般にガソリンエンジンでは、膨張(燃焼)行程で、二酸化炭素、一酸化炭素、NOX(窒素酸化物)
が発生するが、これらの排気ガスは水溶性である。
このため、魚雷に使用した場合、排気ガスは海水中に溶け込むことになり、魚雷は航跡をほとんど残さな
いことになる。これは、日本の酸素魚雷と同様のメリットである。
このガソリンエンジン魚雷は、ドイツにおいて1937年から開発が開始され、1945年はじめには実戦部隊
への配備が準備されていたが、最終的にキャンセルされた。
参考文献には、せっかく苦労した末に開発した画期的な兵器に対して、当局の決定を批判する意見が
書かれていたが、構造が複雑なV8エンジンの量産、戦争末期でドイツの生産力や資源に余裕がなくなっ
たことを考えれば、妥当な判断と言えるのではないだろうか。
引用サイト:
Rotary-Valve Internal Combustion Engines
参考文献
・ 「V1号V2号〈恐怖の秘密兵器〉」:著者:ブライアン・フォード;サンケイ新聞出版局;1971年 6月30日
・
「続・ドイツの傑作兵器 駄作兵器」:著者:広田厚司;光人社NF文庫;2001年 4月14日