酸素魚雷

ブレイトン機関









  
   1.4  ブレイトン機関 (ブレイトンサイクル機関)

  現在、内燃機関と言えば、ニコラス・オットーが発明したガソリン機関、ルドルフ・ディーゼルが
  発明したディーゼル機関の2種類であるが、内燃機関黎明期には、その他多くのエンジニア
  達がさまざまな形式の内燃機関の開発に挑戦していた。
 合衆国のブレイトンが発明したブレイトン機関はそのような無名のエンジンのひとつである。

 以下にブレイトン機関の作動原理について解説するが、図はブレイトンが発明した当時の
  ものではなく、機構説明用に若干アレンジしたものである。

 

  上図のブレイトン機関の左側は、ガソリン機関とほぼ同様の構造なので、詳細な説明は割
  愛する。ただし、注目すべき点は次の点である。

   1)ガソリン機関の説明では、右側の弁を排気弁、左側の弁を吸気弁としたが、ブレイト
     ン機関では、左側が排気弁、右側が吸気弁である。

   2)ガソリン機関ではクランクシャフト2回転に1度、膨張行程があることに対応して、吸
     排気バ ルブを駆動するカムとクランクシャフトの回転を同期させるため、傘歯車の回転
     比を2:1に設定した。ブレイトン機関ではクランクシャフト1回転に1度膨張行程が
     あるので、傘歯車の回転比は1:1である。

   3)ブレイトン機関にはシリンダヘッド部分に点火プラグがない。


  さらに、ブレイトン機関には圧縮行程を外部の空気ポンプで行うという他の内燃機関に見ら
  れない特長があり、そのため、以下の独自の機構が付随している。

 ・ ポンプピストン:コンロッドとクランクピンを介してクランクシャフトに組付けられている。エンジ
             ンのピストンとは位相が180度ズレており、エンジン側のピストンが上昇し
             た場合は下降、下降した場合は上昇という動きをする。

 ・ 自動弁:通常はばねの力で閉状態になっているが、ポンプピストンが下降すると、バルブ
         が開いて、ポンプシリンダ内に空気が吸入される。

 ・ 格子板:二枚の金属製の穴開き板でフェルトをはさんだものである。フェルトは外部から
         低質石油燃料が供給されており、燃料で濡れた状態となっている。

 ・ 種火:低質石油燃料の一部が別系統で供給され、常時、種火として燃えている。



   1) エンジンピストン最上昇位置
  

  エンジン側ピストンは最上昇位置にあり、空気ポンプ側のポンプピストンは最下降位置にあ
  る。クランクシャフトと其々のクランクピンは位相が180度ズレた関係なので、エンジン側ピス
  トンと空気ポンプ側のポンプピストンは上昇・下降が反転した作動となる。


  2)膨張行程
 

  空気ピストンが上昇すると圧縮された空気が格子板を通過する際、フェルトに含まれていた
  燃料が粒となって噴霧される。 そこに種火の火が着火することで、高温の炎(燃焼ガス)
  がエンジン内に流入する。このため下降しているエンジンピストンに燃焼ガスの圧力が加えら
  れることになる。

  2) ピストン最下降位置
  

  エンジン側のピストンが最下降位置に来た時点で吸気弁が閉じられ、シリンダ内には、噴射
  された燃焼ガスが密閉された状態となる。
  一方、空気ポンプ側の自動弁はばねの力により閉じられている


 3) 吸入/排気行程
 

   エンジン側ピストンが再下降位置から上昇行程に転換すると排気弁が開き、シリンダ内の
   燃焼ガスが排気弁から外部へ放出される。
   一方、ポンプピストンが最上昇位置から下降行程に転換すると、ポンプシリンダ内の気圧が
  低くなるため、自動弁が開いて外気が吸入される。

  富塚清先生の「内燃機関の歴史」によれば、 ブレイトン機関のシリンダ内での最高圧力は、
 0.47 MPa 程度だそうである。一方、1898年にスタンレー兄弟が発明した蒸気自動車で
  は、4.1~10.3 MPa、現在使用されている汎用の単気筒ガソリンエンジンで、4.5 MPa
 である。燃焼ガスの圧力が高ければその分だけ原動機を小型化できるが、ブレイトン機関で
  は高出力化が困難と言えそうである。

  また、ブレイトン機関の熱効率は約6%程度と見積もられており、燃料消費の点でも他の
  内燃機関に比べて大きく劣っている。

  ところで、蒸気機関のようにシリンダ外部のボイラ等で燃料を燃焼させる原動機を『外燃機
  関』、ガソリン機関のように、シリンダ内部で直接燃料を燃焼させる原動機を『内燃機関』と
  呼称するのであるが、はたして、ブレイトン機関はどちらになるのだろうか?
 
 これについては次章で検討したい。


 蛇足

  シリンダ内の圧力と容積変化をグラフ化したものをインジケータ線図またはサイクル線図と呼
  び、ガソリンサイクル線図、ディーゼルサイクル線図等がある。

     

  線図のパターンはそれぞれのエンジンに特有のものなので、線図パターンを見るだけで、それ
 がどのような種類のエンジンかを見分けることができる。

  実用内燃機関としてはまったく顧みられなかったブレイトン機関であるが、意外にもブレイトン
  サイクル線図と呼ばれる線図が存在する。

 

  実は、ブレイトンサイクル線図は、ガスタービンやターボジェットエンジンの作動状態を示す線
 図なのである。 ピストン式機関としては失敗に終わったブレイトン機関であるが、ジェットエン
  ジンとして甦り、航空用ガソリンエンジンを大空から駆逐したのは、ある意味、歴史の皮肉と
 言えるかもしれない。



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