酸素魚雷

深度制御









  
  8.1 魚雷の深度制御

  艦船の喫水線深さは、その排水量によって異なるが、戦艦や空母では水深5~8メート
  ル、巡洋艦で水深3メートルと言われている。

  従って、戦艦のつもりで8メートルに設定して魚雷を発射したところ、実は、巡洋艦だったた
  め艦底部を通過した、ということも有り得る。

  このため、攻撃する目標に対して魚雷の深度を適切に設定しなければならない。ここで問
  題となるのは、設定した深度を維持する機構である。

  さて、「魚雷の迷宮」の章で『連合艦隊 潜水艦』(木俣滋郎)では、魚雷の動力源の説
  明がおかしい、と指摘したが、同書には、魚雷の深度調整についても記載されている。

>外部の水圧をバネで感じさせて、圧力の変化を棒の動きで受け止めるのだ。そしていくつもの
>支点を経由して、その力が尾部の横舵(潜水艦の尾部の横舵と同じ作用をする)にくわわ
>り、舵面に一定の角度をあたえるわけである。すなわち発射後、深く潜りすぎると自動的に舵
>がきいて頭部を上に向け浅く走るようになっている。

  この説明から、当時の魚雷は、現在の電子制御によるフィードバック制御ではなく、機械的フ
 ィードバック制御を行っていたと考えることができる。

  ただし、水圧の変化をてこの原理で増幅し、水の抵抗に打ち勝って舵を動かすのは、機構
  上、難易度が高い。「九一式魚雷 管系統図」を見ても、空気圧を使って操舵していること
  が判る。そこで、現代の空気圧機器から、 魚雷の深度調整システムを推測してみた。


 

  ・ 水圧感知器ケース:内部にピストンとばねが収められている。

  ・  水圧感知器ピストン:魚雷の深度(水圧)に応じて、ケース内を上下する。

  ・ 水圧感知器ばね : 水圧に比例して、伸び縮みする。

  ・ ベルクランク:ピストンの上下方向の動きを左右の動きに変換する。

  ・ プッシュロッド:ベルクランクの動きに応じて水平方向に動く。

  ・ 昇降弁:プッシュロッドの動きに応じて弁が開閉し、圧縮空気を送りこむ。


  ・ 昇降舵制御弁:上下にある昇降弁の開閉に応じて、昇降舵アクチュエータの作動方
              向を決定する。

  ・ 昇降舵アクチュエータ:圧縮空気の圧力を推力に変換する。

  ・ 昇降舵:魚雷の縦方向の動きを制御する。昇降舵が上側に動くと魚雷は頭部を水面
           側に向ける。下側に動くと頭部を海底側に向ける。


  1) 魚雷の深度が深い場合
 

  魚雷の深度が設定を外れて深くなると、水圧も上昇する。水圧感知器のばねは水圧により
  圧縮されて短くなるので、その分、ピストンも上昇する。

  ベルクランクはピストンに押されて、上側の昇降弁を押すので、弁が開いて、高圧空気が昇
  降制御弁の上側の小ピストンを押す。すると、ピストン全体が下側に移動することで、高圧
  空気は右上側の穴からアクチュエータ左側に供給される。

  アクチュエータのピストンが右側に移動することで、昇降舵も上側に移動する。この結果、魚
  雷頭部は水面側を向くことになり、魚雷は、水面めがけて馳走するので、深度は浅く保たれ
  ることになる。


  2) 魚雷の深度が浅い場合
 

  魚雷の深度が設定を外れて浅くなると、水圧も下降する。水圧感知器のばねは水圧が低く
  なった分だけ伸びるので、その分、ピストンも下降する。

  ベルクランクはピストンに引かれて、下側の昇降弁を押すので、弁が開いて、高圧空気が昇
  降制御弁の下側の小ピストンを押す。すると、ピストン全体が上側に移動することで、高圧
  空気は右下側の穴からアクチュエータ右側に供給される。

  アクチュエータのピストンが左側に移動することで、昇降舵も下側に移動する。この結果、魚
  雷頭部は海底側を向くことになり、魚雷は、海底めがけて馳走するので、深度は深く保たれ
  ることになる。

  なお、魚雷の実際の動きは下図のように、深度の振れ幅が収束する形で馳走する。

 


 当時の魚雷がどのようにフィードバック制御を行っていたかについては、詳細な資料が見つか
  らなかったため、 「九一式魚雷 管系統図」に記載されている空気圧制御機構と、現在、
 使用されている、油空圧機器のアクチュエータの制御回路から、魚雷の深度制御について、
  推測してみた。「当たらずと言えども遠からず」というところであろうか。




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